一般成果論文

記事掲載日:2019年4月15日

ストロボ発光するオーロラのナゾを解明

尾崎光紀 (金沢大学理工研究域)

Visualization of rapid electron precipitation via chorus element wave–particle interactions
Nature Communications, 10, 257, doi:10.1038/s41467-018-07996-z, 2019

  オーロラは、宇宙空間から電荷をもった粒子が、高度100km付近の超高層大気と衝突して発光する現象です。特にマイナスの電荷をもった電子の衝突によって発光する電子オーロラは、ゆらゆらとうごめくカーテン状や雲状など様々な様相を示します。今回、わずか0.2秒でストロボ発光するナゾの雲状電子オーロラが観測されました。このナゾのストロボ発光する電子オーロラの正体を最新のあらせ衛星(2016年打上げ、プロジェクトマネージャー 篠原育 准教授(JAXA宇宙科学研究所)、プロジェクトサイエンティスト 三好由純 教授(名古屋大学))と地上観測網「PWING(study of dynamical variation of Particles and Waves in the INner magnetosphere using Ground-based network observations、プロジェクトリーダー 塩川和夫 教授(名古屋大学))」、「脈動オーロラプロジェクト、プロジェクトリーダー 藤井良一 名誉教授(名古屋大学)かつ機構長(情報・システム研究機構)」の協調観測により解明しました。オーロラは地上の微弱な光を捉える高感度カメラで撮影することができますが、オーロラを発生させる物理現象は、オーロラが発光する電離圏(高度100 km程度)よりずっと遠くの磁気圏(高度 数千~数万km)で発生するため、ナゾのストロボ発光オーロラを解明するには、科学衛星と地上観測の連携が必須でした。


  あらせ衛星が定常観測を開始して間もなくの2017年3月30日に、アラスカの地上観測点と磁力線でつながる上空3万キロをあらせ衛星が飛翔した際、孤立した自然電磁波のコーラス波を観測したのとほぼ同時にアラスカでストロボ発光オーロラを検出しました。コーラス波は、磁気圏の高エネルギー電子との相互作用により、地球の磁力線に巻き付いてらせん運動する電子を散乱させて特殊なオーロラを発生させることが知られていました。しかし、その物理過程を説明する準線形理論では、ストロボ発光オーロラとは比較できないくらい遅い時間変化しか説明することができないものでした。このため、孤立したコーラス波が磁気圏の電子を散乱させ発生したストロボ発光オーロラは、従来の準線形理論では説明できない強い非線形効果によって発生しているということを世界で初めて観測から明らかになったのです。コーラス波は、磁気圏の電子を加速させ地球の周り(静止軌道まで)の宇宙(ジオスペース)に存在する放射線(高エネルギー電子)を生成する担い手としても注目されています。このため、コーラス波によって生じる高いエネルギーに加速される現象においても、従来の準線形理論では説明できないほど素早く電子加速される非線形効果が生じていることを、このストロボ発光オーロラは暗示させます。

あらせ衛星と地上ネットワークとの協調観測イメージ図 (c)JAXA

あらせ衛星で観測した数百ミリ秒存続期間を示すコーラス波動と地上(ガコナ・アラスカ)で観測されたストロボ発光オーロラの一対一対応

  あらせ衛星とPWING/脈動オーロラプロジェクトの連携観測によってコーラス波とストロボ発光オーロラの同時検出に成功し、たった一つのコーラス波によって生じる非線形波動粒子相互作用について、世界で初めてその詳細過程を捉えました。コーラス波は、ジオスペースで高エネルギー電子生成に深く寄与していることが分かっています。どこで、どのくらいの空間範囲・継続時間で、放射線帯の高エネルギー電子の増減が生じるかの予測につなげるため、オーロラ観測と衛星観測の連携強化はますます重要になり、観測研究は続きます。そして、コーラス波と電子群との波動粒子相互作用は、固有磁場をもつ惑星においても生じることが知られています。水星磁気圏探査機「みお」(2018年打上げ)などによる惑星探査への応用も楽しみです。