学位またはその課程

記事掲載日:2021年2月17日

太陽活動第23周期と第24周期における低緯度コロナホール面積と太陽風速度および地磁気活動の相関について

中川裕美 (茨城大学理工学研究科博士後期課程宇宙地球システム科学専攻)

博士後期課程, 学位取得
指導教員: 野澤恵(茨城大学大学院理工学研究科), 新堀淳樹(名古屋大学宇宙地球環境研究所)

  地球周辺の宇宙環境において、主に太陽からの高エネルギー粒子や電磁波によりじょう乱が発生することがある。これを宇宙天気と呼び、じょう乱の規模や継続時間を予報する試みがなされている。宇宙天気の観点から重要な太陽活動のひとつがコロナホール (Coronal hole: CH) である。CH は X 線や紫外線で太陽を観測すると周囲の太陽コロナより暗く見える領域である。CH は宇宙空間に向かって開いた磁場構造をしており、高速太陽風の吹き出し口になっている。CH から吹き出した高速太陽風が低速太陽風と相互作用すると共回転相互作用領域 (Corotating interaction region: CIR) と呼ばれる磁場構造が形成されることがある。CIR が地球近傍に到達すると地球磁気圏のじょう乱を引き起こす。CH は太陽極域に出現することが一般的だが、太陽活動が衰退する時期には低緯度にも現れることがある。このような低緯度 CH を起源とする高速太陽風の地球磁気圏・電離圏への影響は、極域 CH を起源とする高速風の影響に比べて十分に評価されていない。本研究では赤道域 CH を起源とする高速太陽風が地球磁気圏・電離圏に与える影響を評価するため、太陽周期第23周期および第24周期 (1996年から2017年) における CH 面積・太陽風パラメータ・惑星間空間磁場 (Interplanetary magnetic field: IMF) と、3 種類の地磁気指数、磁気圏対流電場と放射線帯電子フラックスの変動を統計的に解析した。また、IMF の空間変動によって4ケースに分け、各ケースについて CIR が地球磁気圏に到達した前後における太陽風・IMF・地磁気指数・対流電場・放射線帯電子フラックスの変動を調べた。


  太陽活動第23周期 (1996年から2008年) では、南半球における CH 面積変動の方が北半球における変動よりも大きいという南北非対称性があることが分かった。一方、第24周期 (2009年から2017年) では、第23周期と比較して緯度方向により広い範囲に CH が出現する傾向があった。また、CH 面積最大値と太陽風速度最大値には正の相関が見られ、CH 面積と太陽風速度の分布は第23周期の方が大きかった。太陽風パラメータ・地磁気指数については、太陽風速度と AU 指数の変動は、すべての IMF 空間変動パターンにおいて両太陽活動周期で同程度もしくは第23周期における変動の方が大きい傾向にあった。宇宙天気変動の観点から見ると、第24周期は太陽活動が地球に与える影響が比較的小さい穏やかな周期であったと結論づけることができる。

図1. 太陽活動第23周期 (黒線) および第24周期 (赤線) における平均 CH 面積変動。領域の緯度はそれぞれ (a)30度から60度、(b)0度から30度、(c)-30度から0度、(d)-60度

  本研究の解析結果全体を通して、太陽活動周期ごとの CH 面積・太陽風および地磁気活動の変動の違いを明らかにすることができた。第23周期では CIRに関連する低緯度 CH が比較的多く出現する傾向があったため、より高速の太陽風が噴出し、地磁気指数や放射線帯電子フラックスの変動に影響した。一方で、第24周期では第23と比較して低緯度に出現する CH が少なかったため、CIRに関連する高速太陽風の速度があまり増加せず、地磁気活動にあまり影響を与えなかった。