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一般成果論文 記事掲載日:2024年11月8日 紫色の発光現象 STEVE の双子を発見南條壮汰 (スウェーデン宇宙物理学研究所)
Post-midnight purple arc and patches appeared on the high latitude part of the auroral oval: Dawnside counterpart of STEVE? 夕方側のサブオーロラ帯で稀に見られる STEVE (Strong Thermal Emission Velocity Enhancement) という紫色のオーロラによく似た発光現象が、オーロラ帯の朝側でも見られるかもしれない、というのが本研究の主たる結果である。発見された現象は、図1に示すように緑色のオーロラの北(高緯度)側に出現した。この発見について、欧州宇宙機関 (ESA: European Space Agency) からプレスリリースを行い、そこでこの現象を「STEVE’s twin」と呼称したため、今回の記事でも「双子」と表現することにする。STEVE が発生する夕方側のサブオーロラ帯は、しばしば西向きの高速イオン流が発生することでよく知られている。今回、双子が見つかった領域も観測やモデル計算で東向きのイオン流が出現することがあることが指摘されており、STEVE とその双子は、その発生メカニズムにおいてイオンの高速流が重要な役割を担う可能性を示唆している。 この「双子」の発見において特筆すべきは、市販のデジタルカメラを用いた観測が大きな役割を果たした点である。我々は、ノルウェーのトロムソに設置したデジタルカメラを用いてこの紫色の発光現象を捉えた。デジタルカメラは、モノクロで画像を取得することが多い科学計測用のカメラと異なり、RGB の 3 チャネルで現象の色を記録するため、緑色のオーロラとこの紫色の発光を簡単に区別できる。さらに、このような市販のカメラを用いて撮影された画像は、科学者だけでなく一般の方にも馴染みが深いものであるため、「市民科学」の側面において重要なデータセットとなり得る。実際に、本事例もノルウェー・トロムソで活動する写真家の Gabriel A. Hofstra 氏(第二著者)によって発見された。 ![]() STEVEの「双子」。画像の下側に見られる緑色の発光は通常のオーロラである。観測はノルウェー・トロムソ近郊の Ramfjordmoen Research Station にて行われた。画像は上が北、左が東。 デジタルカメラによる観測に加え、ESA の Swarm 衛星が計測した磁場や粒子の計測、アメリカ海洋大気庁の人工衛星 NOAA-20 に搭載された可視光イメージャの観測の結果を比較したところ、双子は経度方向に数千 km の構造を持ち、双子が発生した場所では、急激に増加する東向きのイオンの流れが計測されるなど、STEVE との形態学的、電磁気学的な類似性が明らかになった。この高速イオン流は「Dawnside Auroral Polarization Stream (DAPS)」として知られ、STEVE の生成に関わると考えられている西向きの高速イオン流の朝側の対応現象であるとみなすことができる。このため、今回観測された双子も高速イオン流によって引き起こされる現象であり、STEVE とその発生メカニズムに共通点がある可能性がある。 この研究は、大気の発光現象の多様な生成メカニズムを理解するための新たな知見を提供し、デジタルカメラによる観測の重要性を裏付けるものである。このような観測を繰り返すことによって、紫色の光がなぜ生成されるのか、そしてその発光には高速イオン流がどのように貢献するのか、が具体的に明らかになる可能性がある。そのためには、科学者と市民科学者が協力し、STEVE とその双子の観測を続けることが不可欠である。本研究は、オーロラに類する発光現象に関する謎の解明において、「双子」が新たな鍵となる可能性を示した。 |
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